エネルギー・環境教育セミナー 報告書


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時:

令和元年11月27日(水) 14:00 〜 17:00

場  所: 福井商工会議所ビル 地下 コンベンションホール
主  催: 福井県環境・エネルギー懇話会
共  催: 経済産業省資源エネルギー庁
(北陸エネルギー教育地域会議、近畿エネルギー教育地域会議)
後  援: 福井県教育委員会
福井市教育委員会
■実践事例発表T

テーマ

教科等横断カリキュラムによるエネルギー環境教育の推進
〜エネルギー環境教育体験館 『きいぱす』における体験を軸として〜
発 表:

美浜町立美浜東小学校 校長 木子 雅之 氏

(要旨)

1.「きいぱす」での体験活動

 美浜東小学校区には美浜原子力発電所があります。美浜町では美浜の子どもたちに、自分たちの住む地域の未来を、自分事として、自分たちで決めることができる資質・能力を育むことを目指して、平成18年度からエネルギー環境教育に町を挙げて取り組んでいます。

 平成28年には、美浜東小体育館に放射線防護シェルターシステムが設置されました。普段はステージの中に格納されていますが、有事には体育館全面に膨らませて使うためスペースがなくなることから、児童の保護者引き渡し方法も一から見直しました。同じ年には、原子力だけでなく再生可能エネルギーや観光資源、農産物などの地域資源を最大限に活用し、まちづくりの活性化につなげるための拠点づくりを目指すために美浜町エネルギービジョンも策定されました。

 エネルギー環境教育体験館「きいぱす」は平成29年4月に開館したのですが、美浜東小学校ではその前年度から、きいぱすでの体験と学校での学習がどのようにつながるのか、きいぱすを訪れる前にどのような学習が必要なのかなどを明らかにするため、検証授業に取り組みました。電気が起こる仕組みを考えさせるために「磁石とコイル遊び(電磁誘導)」の体験プログラムを提案したり、「電気の旅すごろく」や関西電力の出前授業を取り込んだプログラム「電気を届ける苦労」の試行にも取り組みました。

 きいぱすは、美浜町のエネルギー環境教育のさらなる充実を目指し、教室ではできない実験・体験を提供する場として整備されました。小中学校の各学年段階に合わせた数多くの体験プログラムが用意されており、最近はバーチャルリアリティ(VR)のシステムも導入されています。太陽追尾式の太陽光発電も設置され、きいぱすの消費を十分に賄っているほか、一部は売電に回っています。

 きいぱすにはバスで片道20〜30分かけて、年に3回程度、午後に訪れます。午後というのがミソで、1回に2コマ実施するので、きいぱす訪問による欠課を出さないためにこうした時間設定になっています。小学校は6年間で36コマ、31のプログラムを体験します。

2.美浜町エネルギー環境教育カリキュラムの改訂

 きいぱすでの体験を位置付けた新しいカリキュラムが必要となり、平成24年度に改訂したカリキュラムを再改定することになりました。その方向性としては、現代的な諸課題(地球温暖化やエネルギー資源の枯渇など)の解決に向けて求められる資質・能力の育成を目指すとした新学習指導要領の趣旨に沿ったものになっています。大枠は踏襲しながらも、きいぱすの体験アクティブ・ラーニングを志向したものになっているので、学校でも主体的・対話的で深い学びを大切にしながら、きいぱす体験を生かせるようカリキュラムの改訂作業に取り組みました。

 学校での学びときいぱすでの学びのつながりを確認するために、統一カリキュラム、教科内容ときいぱすのプログラムを一覧にした表を作りました。この一覧表を使って教科等の指導計画ときいぱす体験の順序性・整合性を重視し、きいぱす体験の適切な実施時期や内容を決定しました。そして、年間指導計画を基に各小学校できいぱすの訪問計画を作成しました。

 きいぱすへの訪問は、5〜6月あたりから始まりました。実施されるに従い、プログラムの中身などいろいろなことが見えてくる中で、一覧表にいろいろな副読本や資料などのリンクを貼りました。教員の教材研究用として考えたのですが、副読本のページそのものも出てくるので、課題提示用にも活用できると思っています。

 この作業を進めていく中で主に参考にした副教材、資源エネルギー庁の『かがやけ!みんなのエネルギー』は、コンテンツがストーリーでまとめられていて、子どもの理解のためにも、教員の実践に向けた共通理解にも大変有用であると考え、美浜町でのエネルギー環境学習の学びもストーリーとして紡いでいこうと考えました。その過程で、統一カリキュラムときいぱすプログラムの擦り合わせを行うため、町内統一カリキュラムの修正、きいぱす体験プログラムの修正・追加を行いました。

 例えば5年生ではストーリーを紡ぐという観点から、11月にきいぱす体験があったのですが、そこに敦賀火力発電所や敦賀港の見学を加え、着岸するタンカーやうずたかく積み上げられた石炭などを実際に見ることにしました。その後、12月に社会科で貿易について学び、6年で学ぶ予定だったきいぱす体験「資源としての化石燃料」「エネルギー世界地図」を繰り上げたことで、一連の流れとしてストーリーを紡げたと考えています。こういう感じで小学1年生から6年生までの6年間の学びのストーリーを教科横断で紡ぎ上げたカリキュラムになっています。

 中学校では総合的な学習の時間を中心にして、プロジェクト型学習を志向した実践に取り組んでいます。

3.美浜町エネルギー環境教育の共通実践のために

 そのカリキュラムを美浜町内で共通実践にしていくため、町内3小学校が足並みをそろえて実践しています。まずは、エネルギー環境学習の進め方として、きいぱすでの体験につながる教科等の指導を、教員が見通しを持って確実に実施しています。それから、きいぱすでの体験においても主体的に指導に関わることを町内全教員で確認しました。当初はどうしても、きいぱすの専門員にお任せで、教員が一歩引いてしまう場面もあったのです。見通しを持って主体的に活動に関わるために、町内教員用のサーバーにきいぱす全プログラムのプレゼン資料や授業の進め方をアップし、教員がいつでも確認できる体制にしました。

 また、紡いだストーリーを共通理解するために、12のストーリーとして提示し、PowerPointのプレゼン用シートも教員用サーバーにアップし、統一カリキュラムへの共通理解を深め、エネルギー・環境教育の共通実践につないでいきたいと考えています。

4.学びの行動化・実践化を目指して

 そして、実際に子どもたちの行動につなげていくことを目指し、いかに総合的な学習につなげていくかということを考えました。その中でも今日は、地球温暖化に関わる実践、「ふるさと美浜 元気プロジェクト」と銘打った実践、いろいろな発電の仕組みに関わる実践を紹介します。

 6年生の「地球温暖化に関わる実践」では、理科の「物の燃え方と空気」の発展として、4次元デジタル地球儀「ダジックアース」を用いて、地球という視点を大切にしながら、地球温暖化の仕組みについて学びます。そして、6年生の社会科のまとめに位置する部分だと思いますが、省エネ・省資源など温暖化防止の行動へとつなげるストーリーを提案しています。

 昨年度の6年生は、先ほどの学びを小学校でのまとめとして、2月のきいぱす体験「エネルギー環境学習発表会」に向けた調べ学習につなげていきました。そして、壁新聞を作ってポスターセッション的に発表し合いました。

 ダジックアースというのは、京都大学大学院理学研究科の研究グループが開発したアプリケーションで、無償で提供してもらえます。京大を中心としたダジックチームがフォローしてくださり、地球温暖化のさまざまなシミュレーションを演示できたり、直近のひまわりの画像を見せたりもできるので、これはお勧めです。今年1月には、美浜町にダジックチームの方をお招きして、実際にダジックアースを活用した地球温暖化の公開授業も実施しました。

 現6年生は、5年生のときから3小学校合同で「ふるさと美浜 元気プロジェクト」に取り組んでいます。昨年は美浜町で開催された福井国体ボート競技の会場で「美浜町PR」に取り組み、3学期には美浜の空き家問題について学びました。6年生になってからは、きいぱすプログラムの「温室効果ドーム」「電気設備の消費電力を調べよう」を体験し、省エネ・省資源を意識化したところで、7月には美浜町の課題を探るインタビュー大作戦、8〜12月にはそれを受けての調べ学習、プレゼンの準備を行い、12月に合同発表会を開催します。エネルギー・環境問題に特化して学習を始めていないので、2月に3小学校合同で開く「エネルギー討論会」にどうつながってくれるのか、大変楽しみにしています。

 5年生では、4年生2月の「発電のしくみを見てみよう@」で、理科の発展として、火力、原子力、水力、風力の発電の仕組みとその特徴を学び、再生可能エネルギーを上手に利用する取組について学んでいます。社会の教科書では早くに出てくるのですが、2月に持ってきて、きいぱす体験「美浜町エネルギービジョンって何?」につなげていきます。

 そして、平成30年3月に美浜町エネルギービジョンの事業化計画が策定され、その計画に基づいてモデル集落の募集も始まりました。現在2集落が応募して取組が進められています。こうしたことも踏まえ、子どもたちに「自分たちの集落のモデル化を提案しよう」というテーマで考えさせたり、「地域に住む私たちにできること」を考えたり、「2030年、2050年に向けてのベストミックス」を考えたりするなどの、5年生の総合的な学習での学びを「私のエネルギービジョン」という形で提案しています。

 そして、行動が変わらなければ何も変わらないということで、実際に学んだことを子どもたちが生活行動の中で少しでも生かすことを狙って、学級活動では「省エネトランプ」の活用やそれに連なる省エネ活動に取り組んでいます。それから、全校での「チャレンジエコ活動」にも取り組みました。夏休みに宿題として各家庭に呼び掛けた取組ですが、ほとんどの家庭で取り組んでいただきました。照明やテレビのつけっ放し、水道の出しっ放しをしないように心掛けたり、エアコンの設定温度を控えめにしたりした家庭が多かったようです。私はクールシェアという言葉を知らなかったのですが、家族ができるだけ部屋に集まることで、「クールシェアから家族だんらんにつながりました」という報告もありました。それから、マイバッグ、エコバッグに取り組んだ子どもたちも多かったようです。

 子どもたちからは、「自分でできることから始めることが大事だと思いました」「一人でも多くの人がリサイクルすれば日本全体のごみが減ると思いました」といった感想がありました。3年生からは「こんなちょっとのことで地球にいいのかな?」という感想があったのですが、ちゃんと答えになるような6年生の感想「細かいことでもみんながやれば地球温暖化が少しぐらい良くなる」がありました。

5.おわりに

 いろいろな意味で大きな岐路に立っている美浜町において、このように教科やきいぱす体験などさまざまな学びを通して、子どもたちが自分たちの住む地域の未来を自分事として自分たちで決めることができる資質・能力を育むために今後とも取り組んでいきたいと考えています。今後の課題としては、新学習指導要領が全面実施となりますので、年間を通した実践に基づくカリキュラムの検証と修正を行い、総合的な学習における町内共通実践の在り方を探るとともに、省エネルギー・省資源などの生活行動につなげるための学年段階に応じた動機付けにも取り組んでいきたいと考えています。2点目の総合的な学習の取組については、学校の事情や子どもの状況、担任の思いを踏まえて考えると統一カリキュラムとまではいかない面があり、共通実践の難しさを痛感しているところです。

 そして、学びを行動につなげることができる資質・能力を養うことは、生きる力を育む上で大変重要なことです。地球温暖化防止、エネルギー資源の枯渇が課題とされており、折しも昨年度の温室効果ガス排出量が過去最悪との報告もなされました。気候危機も皆さんご存じのとおりです。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが温室効果ガスを減らすために遠距離移動でも飛行機には乗らず、ヨットでアメリカへ渡ったという報道もありました。近距離路線の運航はやめて鉄道への接続を検討しているヨーロッパの航空会社もあるように聞いています。

 それから、使用済み核燃料の課題もあります。高レベル放射性廃棄物の地層処理について、京都の先進校では小学4年生が議論しています。お膝元の美浜で、子どもたちにどう投げ掛けるのかというのは、発達段階も踏まえて大きな課題であると考えています。私をはじめとする美浜の大人たちがどこまで自分事としてこれらの課題に取り組んでいくのか、私は今年で退職ですが、美浜の一町民としてこれらの課題にも正対していきたいと思っています。

 

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